先日、芥川賞が発表された。 選者の評価では低調な選考だったらしい。 だが、私はそう思わなかった。感想を雑記する。
のまえに、簡単にあらすじを書こう。 だが、このお話、内容を説明するのは難しい小説だ。はかばかしい展開がある物語ではないからだ。 強いていうなら。
離婚から若干生きることに疲れてしまった太郎は、住んでいた土地も職も捨て、「ビューパレス・サエキ3」(本当は3はローマ数字)にというアパートにやってきた。 このアパート、すでに取り壊しが決定していた。続々と退去する住人のなかで残った三人、太郎、西さん、巳さん。三人の交流と、周囲に並ぶ建物、周辺にある自然を精緻な文章で描く。 ということになろうか。
「春の庭」とは写真集のタイトルで、アパートの隣に建つ洋館で撮影された。
1、描写とそこに隠された「穴」 選者のいう通り、柴崎さんの特徴は徹底的な描写にある。カメラ撮影が好きだからだろう。街を見る視点が写真のような切り取られ方をしている。もしかすると、幾枚かの写真を手元においてそれを実際に見ながら書いているのかもしれない。そういう精緻な描写である。
そして、その描写に紛れ込ませたように埋没させた、街のなかの「穴」。急に更地になった場所、空き家。トックリバチのツボ型の巣。昔コピーライターが夫婦で撮影した「春の庭」という写真集に載っている隣の洋館にしても、結局は以前のままで、時が止まった場所であった。ある意味この場所も変かし続ける周囲と比べれば「穴」になっている建物だ。 この、ここかしこに散らばっている「穴」がこの作品の要となっている。 以上続きは2で。