池波正太郎をめざして

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明日は明日の風が吹く

今の心境にあわせてブログ名を変更しました。どうぞよろしく。肩の力をさらに抜いてやります。

第五回文章スケッチ「水槽」 すみだ水族館で書きました。

短編小説の集い 雑記

 ブログ更新をサボり気味のまさりんです。

 

 ほんと、いい加減にしないと。細かい用事が重なって忙しいです。ほんと、なんとかしないと。今回は、文章スケッチへ出してみます。ゼロスケさん、お願いします。

 

novelcluster.hatenablog.jp

 

すみだ水族館

 世界で二番目に高いビルを東から回り込んで西に抜ける。家の大黒柱のような塔の中枢にあたる柱を、多くの鉄柱が網の目のように張り巡らされて塔を支えている。網の目は燕の巣を思わせる。塔の脇には水族館がある。

 塔のチケットは塔の足下を囲むように建てられたショッピングセンターの四階にあたる高さにあるテラスに立っている直方体の建物で購入できる。塔の足下に建っているようで、地表からはかなり高い場所である。その直方体の壁にある予約エントランスと当日券購入者用のエントランスを左手に眺めつつ進む。当日券購入者用エントランスには「四五~六〇分待ち」という表示があった。根本から見上げて塔の先端を見るのは困難だ。中秋の日差しが燦々と照りつけて、白色の塔と直方体の建物の外壁が輝いている。

 外国人、特に中国人の旅行者が多い。たいていキャリーバッグを引いている。日本人も外国でそうに違いないが、なぜか服装の選択が細かいところで独特なので、すぐに日本人ではないとわかる。家族連れの四,五人の集団が多い。自分たちを追い越したりする人がいるという感覚に欠如し、だいたいだらだらと広がって歩いている。

 そんな集団をやり過ごすと、「チケット購入者の方はこちらからどうぞ」と水族館の脇にあるチケット売り場の横で女性スタッフが誘う。女性スタッフが誘導する先には、ロープが蛇行している、購入者を並ばせるための列があった。午前中ということもあり、それほど並んでおらず、前には男一人、女三人の老人たちがチケットを購入していた。男が全員分を払ったので、老人の割にスムーズに事が進んだ。チケット購入口は二つあり、受付嬢はまっすぐ目を見て応対をする。

 チケットを購入して建物内に入る。外の陽光から一転、いきなり暗転する。自動改札を思わせるような入口がある。横には女性スタッフがいて、自動改札の脇のゲートを開放していた。チケットを見せる。女性スタッフが半券を千切る。「いってらっしゃいませ」という声を背に受けて、暗く緩い坂道をゆっくりとのぼっていく。すると目の前に鮮やかな光源があるのを認める。大きな水槽だ。

 五,六畳ほどの空間に入ると、奥の壁に五〇センチほどの黒く大きな石造りの台座の上に、一メートル半はあろうかという巨大な水槽が乗っているのが見える。幅は五mほどである。不自然にならない程度に十分な明度で照明が当てられている。水槽全体の雰囲気は初夏の森の朝といった具合だ。水槽の底には南国を思わせる白い砂が敷き詰められている。巨大な樹木が水槽の左右に一つずつに鎮座している。左右の木々の間には直径一五センチ以上の枝が斜めに渡されている。枝や木の上には水草が生えている。苔系の細長い葉の水草がびっしりと生えている。照明のせいか水草の発色がよく、魚も元気である。小魚のほかに、小エビも踊っている。小魚で一番目立つのはネオンテトラだ。

 水槽の脇の壁に張ってある説明書きを見ると、「通常水族館の水槽には酸素を供給しますが、この水槽では二酸化炭素を供給しています。二酸化炭素を使って水草光合成を行なうことで、酸素を水中に供給します」とのこと。つまり、水草には水草の役割がきちんとあり、それを遂行することでなかの生物が生きているのである。

 小さな男の子が、ママに連れられてやって来た。水槽を見て、「あ~熱帯魚だ」と大きな声を出して近づいていく。高校生六人組が続けてやって来た。ズボンは学ランのズボン、上はワイシャツだ。全員が標準の制服である。六人の平均身長は一七〇㎝といったところか。同じ学校だろう、女子二人も続く。女子は二人とも肩に掛かりそうな黒髪をしていて、身長は一六〇㎝程度だろう同じ学校であるというだけで、別に仲がよいわけではなさそうだ。水槽に到着するやいなや、女子はその水槽の鮮やかさに感動したのか、記念撮影を始めた。自撮りをするのだが、水槽に近づきすぎて、その魅力が伝わらない撮り方をしていた。彼女たちが撮影したことで、ブレイクスルーが起きて、他の人々も撮影し始めた。入口付近に「フラッシュ撮影禁止」と書かれた立て看板があった。つまり、フラッシュをたかなければ良いのだと人々は気づいたのだ。

 六畳あまりの空間の、他の壁二面にも同様に水槽が設置されている。巨大な水槽を正面に、後ろに小さめの水槽、右手にさらに幅の広い大きな水槽である。小さめの水槽の脇には水草の説明がある。水草には「抽水」「浮遊」「沈水」「浮葉」の四種類があるらしい。「抽水」とは、水草の大半が沈んでいる状態を指す。水辺の茅などを想像すればよい。「浮遊」とは字の如く水に浮いている状態である。「沈水」とは完全に水没しているものだ。「浮葉」は葉だけが水面に浮いている状態である。後ろの水槽にはその四種類がきちんと植えられている。間を小さな熱帯魚が泳いでいる。水槽の底に白石が敷き詰められ、水面に浮いている葉に向かって、蔓がつながっている。丸い葉が浮いている水草は「タイガーロータス」という。その根元には「アヌビアスナナ」の丸い葉と「ボルビティス」の歯朶のような葉の緑色が鮮やかだ。その間に体の半分だけが虹色になっている「ハーフレインボー」が泳いでいる。

 さらに大きな水槽を見る。幅は七メートルある。おおきな溶岩のような岩が左右と中央に配置され、水草はそこに根付くように生えている。左の岩には笹のような葉っぱ、同じように細長いが、葉の縁が波打っているもの、赤くて長くてギザギザした葉などが生えている。目立つのはスギナのような葉っぱの水草が目立つ。中央の岩石は水墨画のような、ゴツゴツした岩が幾つも立っている。まるで岩から岩が生えているような構図である。岩の周囲には赤い葉っぱのものが多く生えている。右には巨大な溶岩がおかれ、細い葉の水草がびっしりと生えている。岩の表面には、細長い葉が生えている。右上には柿の葉のような形の水草がある。全ての岩の根元に身を隠すように小エビが跳ねていた。

 岩と岩の間は水草の草原になっている。背の低い水草がびっしりと植えられている。上の管から何らかの気体が注入されているのがわかる。これが二酸化炭素だろうか。そこを赤黄青などの鮮やかな横縞が入った熱帯魚や、腹が赤、背が青の蛍光色になっている熱帯魚が多く泳いでいる。小エビと違い、自らの体色を誇示しているみたいであった。

 水槽のまえに、長い髪をなびかせて熱心に水槽を見ている女性がいる。上が白いシャツで、したはデニムであった。近づくとムスク系の香水が強く匂う。女性に夢中であるのか、黒い熱帯魚が女性の目の前水槽に張り付いて水槽の表面に付いた何かを食べていた。

――了――(二七五〇文字)

 

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