今日の十分日記

今日の十分日記

原点回帰の雑記ブログ。十分で書ける内容をお届けします。十分以上書くときもあるけどね。十分以下もあるし。

菅原分太主演 「仁義なき戦い」感想。ただの暴力映画じゃないぜ。

スポンサーリンク

 

菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)

ほしいVAIO ZはCANVASじゃないほうのまさりんです。

 

 

 もう随分前になるが、菅原文太さんが亡くなった。昨年の十一月から数ヶ月経過した。晩年には政治活動を行い、反戦運動にも力を入れていたというイメージがある。

亡くなった後に、当然追悼で何本か映画をやっていた。そのなかで今回「仁義なき戦い」を取り上げようと思う。

 取り上げようと思ったきっかけは、町山智浩氏がラジオでこの作品についての解説だ。氏は「仁義なき戦いはただの任侠映画ではない。逆に任侠の世界を否定する映画だ。だから、仁義がない、というタイトルになるのだ」という主旨の話をしていた。私はただ殺し合う、暴力団同士の抗争を描いたものだと思っていたので、その解説は意外であった。

 

 戦後まもなくの広島が舞台である。

 終戦当時の広島は原爆などの影響もあってか、壊滅状態、無政府状態に陥っていた。MPの横暴や、無差別に暴れる男などに対抗するように、人々は助け合うようになっていった。そんな人々の中に広能幸三(菅原分太)がいた。闇市で暴れ、友人を切りつけた男を殺すことを善意で請け負う。その科で刑務所に入る。刑務所で土居組の若杉寛と出会い義兄弟となる。出所後は闇市で知り合った連中と山守組を立ち上げる。この山守組の組長がもともと土建屋の社長で少々食えない人物だ。金を中心に物事を考えるような人物であった。

やがて、山守組は市議選に絡んで、土居組と対立する。

 土居組をどうにかしようと、一緒に山守組に入った連中は話し合う。みんなで土居組に殴り込もうという流れにはなる。だがみな死ぬのがイヤで、殴り込みから離脱しようとする。そこで見かねた幸三は自分が土居組のトップを殺すことを提案する。見事暗殺に成功するのだが、行き場を失い、刑務所へ入る。

 やがてサンフランシスコ講和条約の特赦で幸三は出所する。幸三が刑務所に入っている間、土居組が壊滅したおかげで、山守組は大組織になっている。が、大組織になれば内部抗争が激化する。坂井鉄也(松方弘樹)と新開宇一(三上真一郎)が対立する。新開はシャブを扱い金を集めようとするのだが、坂井はシャブをさばくのが許せない。坂井は新開一派を粛正する。

 その過程で押収したシャブを山守組長は横流しして換金していた。坂井はそれが許せなくなり、「お前など我々がかついだ神輿だ」という捨て台詞を吐き、対立するようになる。幸三が帰ってくるのはこのような時機であった。

 組長、坂井、両派とも幸三を使って相手をなんとかしようと試みる。幸三はヒットマンとしては最強だと恐れられる存在になっていた。坂井と組長の和解を図ろうと、坂井に会うのであるが火に油を注ぐ結果となり、組長に引退を迫る。結局幸三は汚い両者と手を切る。最終的に足を洗いたいと弱気になっている坂井は殺されて、物語は終わる。

 

 

 幸三は仁義というと大げさだが、「人の良さ」から行動することが多かった。指を詰めるのも、人を殺すのも、見かねて「俺がやろうか」という親切心がにじみ出た行動だった。それを利用してみな大きくなっていく。最終的に山守組を立ち上げた人間で生きているのは、幸三と槇原(田中邦衛)、そして組長だけとなった。

 抗争をしている彼らの行動原理は明らかに金なのである。金が儲かれば裏切りもありだという感覚でかれらは動いている。組長と坂井が対立したときの槇原の動きがまさにそうだ。両方に通じていて、事態を動かしている。

 また幸三だけはみなと違う原理で動いている。まるでよそ者のように。始め、闇市で暴れる男を殺したとき、幸三は別に仲間ではなかった。幸三は外からやってきた人間だ。この「外からやって来た正しいこと、裁きをする人間」という構図は多くの作品で使われる。「アウトレイジ・ビヨンド」がまさにそうだった。その前作「アウトレイジ」では仁義なき抗争を繰り返した人々が一掃され、一番汚い人間だけが残る。たけし演じる大友がこれを粛正するという構図だ。

 意外かもしれないが、「踊る大捜査線」もそうだ。青島は脱サラした警官で、純正品でないからか、組織の論理に染まらない。外の世界からやってきた人間というわけだ。それが仲間達と奮闘していく。

 日本の組織を考えたとき、みな純正品を好むのであるが、なかにずっと所属した人間が、組織改革を成功させるという例はあまりない。みな外からやってきた人間が、ときには暴力的に組織を変えていく。明治維新前後の黒船騒動、今ならカルロスゴーンなど、いちいち挙げればキリが無い。これが日本の組織改革の形である。

 確かに「仁義なき戦い」は暴力的な映画であるが、組織の運動をリアルに描いている映画でもある。そういう観点から見れば非常におもしろいと思った。

 また、幸三のキャラクターを考えると、反戦運動をする菅原分太の姿と繋がる気がするのは私だけだろうか。

 

仁義なき戦い 浪漫アルバム

仁義なき戦い 浪漫アルバム

 

 

 

菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)

菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)

 

 

 

仁義なき戦い―美能幸三の手記より (死闘篇) (角川文庫 (4394))

仁義なき戦い―美能幸三の手記より (死闘篇) (角川文庫 (4394))