久しぶりの映画感想。
この映画は、かの有名なマーガレット・サッチャーの人生を描いたものだ。
舞台は彼女が退陣した後、老後痴呆症を患った後のこと。
その生活に、彼女の人生の回想シーンが挟まる形で進行していく。
痴呆症になった彼女は、夫であるデニスの幻影と思い出に浸っている。デニスはすでに故人である。
彼女の思い出は第二次大戦中から始まる。
食料雑貨店という庶民の出の女性でありながら、オクスフォードに合格する。とはいうものの、父親は市長を務めるような人物であるから、貧困であるとはいえない。しかし、個人的にはイギリスの女性への差別、性的少数者への迫害は日本よりもすさまじく、そこからオクスフォードに入り、正解へ進出するというのは並大抵のことでは無い。この時点で彼女の優秀さが際立つ。しかも、労働党ではなく、保守党に所属している。保守党の議員は上位層の出身者が多い。
一度下院議員から出馬して落選する。その時に法律の勉強をして、弁護士の資格を取得する。優秀である。
彼女の思想は、保守的思想が強かった父親の影響と、メソジストという宗派のキリスト公の影響が強い。質素倹約を旨としている。
このあとの行動を見てみるとその影響がよく分かる。
簡単に言えば、緊縮財政を強いていく。
映画中では、「国に頼らないで働きなさい」という表現になっている。
日本も少しそういう傾向が出てきたが、その当時のイギリスは(ケインズの影響?)公共部門が肥大しすぎていた。日本でいえば、JRもJTも郵政も国営で、しかも炭鉱やらなんやら、国営部門が大きすぎた。
そこをサッチャーは民営化し、規制を緩和した。
そこには父親や宗教の影響があったのだろう。
家庭人としてのサッチャーは完全に欠落していて、夢中になって仕事をするあまり、双子のことも夫のことも放置していた。さらにデニスは政治活動に巻き込んでいた。
痴呆症になったのちは、双子の息子は妻共々よりつかなくなっていた。
彼女は時代の節目に気づかなかった。
「質素倹約」を旨に改革を行い、それは成功していたが、評判は悪かった。いや個人的にはサッチャーの評判がよかったことは無かった気がする。
当然、狙われる。IRAには泊まっているホテルを爆破される。
ときはベルリンの壁崩壊の時期。
彼女は全欧州的な方向を見誤る。
イギリスの自主独立を意識するあまり、EUの参加をせず、消費税導入に踏み切ろうとしていた。その会議上、となりにいる議長を叱責する。それが遠因となって、失脚する。
その後、彼女はデニスの幻影と戦うことになる。
それは双子の娘の願いでもあった。彼女はデニスの遺品に囲まれて生きていた。
住み込みのメイドから娘は、(おそらくアルツハイマーの)薬を飲まないことを聞いていた。
自伝本を執筆して、そこにサインを書いていた。そこに「ロバート」という旧姓を書き込んで、はっとする。
様々な要因が重なって、結論を出すのだが、作品の最後の最後、ティーカップを洗うのだが、その表情を見ていて、出した結論が正しかったのか分らなくなるのである。
その最後の表情は、是非見て欲しい。
わかりきったことだが、メリル・ストリープは素晴らしかった。
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