今日の十分日記

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原点回帰の雑記ブログ。十分で書ける内容をお届けします。十分以上書くときもあるけどね。十分以下もあるし。

高畑勲展――十分日記286

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東京国立近代美術館で開催されている、「高畑勲展」に行ってきた。

東京都立なのか、国立なのか、見間違うような美術館である。東京都の美術館は上野の山の上にある。

どちらもそうであるが、暑いので気を付けてほしい。

国立近代美術館の方であるが、最寄り駅は東西線の竹橋駅であるが、現在駅構内に自販機がない。近代美術館のなかにもない。入り口付近に屋台があった。甘酒を推していたが、のどが渇いているときに甘酒はなかなかだ。

美術展の混雑具合だが、それほどの混雑ではない。土曜日の午後三時過ぎに入ったが、人が多くいて、展示物がちょっと見にくいな、程度の混雑だ。よく展覧会に行かれる方ならば想像がつくだろう。外に列ができるほどではない。

 

この展覧会は高畑勲の演出、監督の歴史を振り返るものだ。

高畑勲は1935年に三重県で生まれる。

アニメの黎明期から制作にかかわっていく。「安寿と厨子王」という黎明期の作品で演出を手伝う。その後、歴史的な名作、「狼少年ケン」にもかかわる。

初めての監督作品は、「太陽の王子 ホルスの大冒険」である。

その当時の広告が掲示されていたが、ウルトラセブンとゲゲゲの鬼太郎を従えての上映だった。興行成績はそれほど振るわなかった。

しかし、作品の監督として、革新的な手法を取る。

ただの分業を行ったのではなく、民主的な手法を取った。

末端の動画員に至るまで、すべての人間の意志疎通を図り、どんな意見でも吸い取った。このときに頭角を現したのが、下っ端だった宮崎駿である。

そのときの工程表やメモ書きが展示されている。

宮崎駿の描く絵というのは、原画の方が魅力があるという話は以前書いたと思う。

話自体は、アイヌの神話を基調とし、北欧に舞台を移設したものになっている。

もちろん、主人公はホルスなのであるが、悪魔の妹であるヒルダの描き方が凝ったもので評価された。宮崎駿もその絵に衝撃を受けたらしい。

 

続いて、「アルプスの少女ハイジ」、「母を訪ねて三千里」など、宮崎駿とコンビを組んだ作品が紹介される。特に直にアルプスや南米などをロケハンして作られた背景のスケッチが展示されているが、これが特筆すべき素晴らしさだった。独立した絵画としても通用する美しさだ。

「赤毛のアン」の途中で宮崎とは袂を分かつ。宮崎は「カリオストロの城」の監督に就任する。

これらの作品、演出家として高畑勲は峻烈な演出をした。「アルプスの少女ハイジ」は良い。少女が解放されていくアルプスでの生活にクローズアップしたものになっていた。しかし、「母を訪ねて三千里」では、キャラクターを描いていた、小田部羊一は苦しんだあげく制作後、マルスを書けなくなってしまうほど、苛烈な演出を行った。「赤毛のアン」でも、「幼いころと打って変わって、大人になってからは知的で美しい女性になるようなキャラクター」を発注した。

場面設定や背景などに非常にこだわり、それをやってのけるスタッフを重用した。男鹿和雄がその人であった。男鹿はもともと「となりのトトロ」のスタッフで、「となりのトトロ」を見た高畑が、「おもひでぽろぽろ」の背景を任せた。そこから「かぐや姫の物語」まで、背景を担当する。

 

 

 

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(※撮影自由のジオラマ)

あまり全部を書きすぎても仕方がない。

切り上げるが、「かぐや姫の物語」が高畑の最後の作品であるが、そのアイデアは「狼少年ケン」のころから温めていたものであった。企画書自体は、その時期に会社に出されたものだった。

「かぐや姫の物語」に照準を合わせたように、演出方法を練り上げていったように見える構成の展示であった。もちろん、ご本人がそう考えていたかどうかはわからないのであるが。

並べてみると、「かぐや姫の物語」が高畑の集大成であったということがよくわかる。生涯使ってきた演出がふんだんに盛り込まれているのである。そして、それを支えるスタッフをそこに合わせて集め、育てていったということもよくわかった。

一番興味深かったのは、ただの分業ではなく、意思の疎通を一番大切にしていて、それを可能にするために、キャラの設定づくりや背景などを作りこんでいく作業を大切にしていたことだ。鈴木敏夫氏に言わせると「勘弁してくれよ」という部分だろう。

「火垂るの墓」では実際の駅の写真から想像したり、昔の写真から想像して、山本二三(やまもとにぞう)が背景を作っていった。しかし、実際に造られるアニメーターが描く絵は山本が描くものよりラフなものになってしまう。「もうやだ。もっと配色に力を入れたい」と高畑に相談すると、「意思の疎通が大事なのだから」と怒られた、という逸話を聞いた。

そうしてチームのレベルを引き上げていくという作業を監督として行ってきたというのが興味深かった。ある種の追い詰めであるが、それがないとよい作品はできないのだろうと思った。

ぜひ音声ガイドを聞きながら回ってほしい。関係者のインタビューがふんだんに使われていて、その逸話を聞くと面白い。

 

太陽の王子 ホルスの大冒険
 

 

 

アニメーション,折りにふれて (岩波現代文庫)

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