前回までの話で、実はキャスバルが父親を殺されたことを恨んでザビ家一党に対する復讐劇をたくらんだわけではなく、それは母親を失った悲しみから起こしたことなのではないか、という内容が描かれた。
それもデギン・ザビたちがキャスバルの父親を殺したわけではない。はっきりそれが描かれたわけではない。もしかすると父ジオンの自然死に乗じたザビ家の造反を、ザビ家のライバルであるラル家の当主、ジンバ・ラルの勘違いであったかもしれない。そういうことも示唆した内容であった。
今回の第四話ではとうとうキャスバル最愛の母親が毒殺される。
それを知ったキャスバルはとうとう暴走を始める。
シャア・アズナブルという名前はキャスバルの偽名であるが、同時に実際に存在していた別人物の名前でもあった。キャスバルはシャア・アズナブルという名前を謀略によって奪う。その名前をもってして、彼はジオンの軍事学校に入学する。
復讐するのならば、敵方である連邦軍に入隊するか、もしくは第三勢力を作り上げていくか、いずれが有効である。シャアはそうではなく、敵方(こうなってしまうと全部的なのだが)の懐に飛び込む。もしかすると、これが彼にとって一番リスクの少ない方法だったのかもしれない。連邦に入れば危険分子として扱われ、第三勢力を成立させようとするのが一番筋が通っているが、勢力が拮抗する前に、ジオン・連邦の両者から潰されるかもしれない。どちらもリスクが高い。
母親が恋しい、恋しい母親を奪ったザビ家が許せない。
この一念だけで、この後シャアは行動してゆく。
江戸時代の敵討ちと一緒で、実際の復讐劇の成功率は非常に低い。ところが、シャアの復讐劇は達成してしまう。それがZガンダムのクワトロ・バジーナの情けない人物像につながっていく。もしかすると、ア・バオア・クーでシャアは死ぬつもりだったのかもしれない。生き残ってしまって、どう生きていったらいいのかわからなくなってしまった男、それがZガンダムのシャアだった。
そののち、今度は父親の思想を受けつぐことを誓う。と表面上は見えるが、次の復讐劇に彼は向かう。
無意識のうちにシャアは母親を探し続ける。だが、幼少期に母親を失ったために、シャアは母親というのがどういうものかわからなくなっていたのかもしれない。実際の三十代の男にとって、母親に限らず親は長所と短所を合わせ持った普通の人間として心中で像を結ぶ。幼児にとっての母親はもっと完全な形で存在する。そのうっすらとした面影だけがシャアの心の中に浮かんでいる。
二十歳のころにシャアはララァ・スンと出会う。ララァはジオン軍に強化された人間だ。ララァは上官としてのシャアの仕え方と、父親に対する仕え方を混同し、シャアのすべてを受け入れようとしたのかもしれない。そのララァをシャアは母親として認識する。
「逆襲のシャア」におけるシャアは母親を探そうとして、結局はララァを探そうとしていた。そんな女は存在するわけがない。女はみな違うのであるし、母親は一人しかいない。ララァの断片を見つけては近づき、違うと気づいては使い捨てにした。
「母親=ララァ」の幻像に惑わされて、シャアは死ぬ。
二度目に母親、ララァを殺したアムロに復讐をしようとして。
その願いはまたもや達成されてしまう。
なんともすさまじい話である。
その一番根っこの部分を見せられている感じがするのである。
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